“騒ぎ”が収まった頃。
「負傷者の様子は…どうだ?」

Sazabi大尉がガイに聞く。
「うむ…心配はないだろう。…じき、良くなるだろう」
「今はどの程度のパイロットが待機している?」
「8人程度・・・ですかね。まぁこの辺りに連邦が居るとは思えないんで、適当に待機してますよ。
まぁ、俺を含んで他の連中も命令さえ出ればすぐにいきますがね。」
「なるほど・・・。」
Sazabi大尉はそうつぶやき、そしてブリッジの方へ向かった。

「ゼノン少将・・・少しお話しが。」

「おや、これは。“御神体”様がお話しとは。光栄ですな」
ゼノンが少し茶化しながら言い、
「で・・・一体なんだ?意見はできるかぎり取り入れるつもりだ」
そして真面目に答えた。
「そうです、お願い事だったんです」
Sazabi大尉も少し茶化し、
「戦闘を合理的に行いたいので“小隊”を作りたいのだが・・・」
と言った。

「小隊ならうちにもあるはずなのだが・・・?」
ゼノンが意を飲めないでいると、
「要するに、今ある部隊の他にもう1つ、私が指揮を執る小隊を作りたい。
そしてパイロットは私が選びたいのですが。」

ゼノンは少し考え、
「まぁ、あれだけの腕前だ、悪い“戦略”では無いのだろう。
…任せる。パイロットも好きに選べ。」
言葉はぶっきらぼうだが、言い方にはそれが微塵にも感じられなかった。

「ありがとうございます。――――それでは、早速パイロットに招集をかけるのを頼めますか?」
「あぁ、分かった。で、誰を呼べば良いんだ?」
「確か…ビリーとディライアと言ったはずだ。…ちがいますかね?」
「いや、確かに二人とも居ることは居るが・・・この艦にはいないぞ?」
「だから少将に頼んだのです」
「全く・・・どっちが上官かわからんな」
ゼノンが苦笑し、そして各艦に通信を入れる。

Sazabiは知らない内に

****

「さて…これからどうなる…?」
ビリーとディライアが来るまでの少しの空き時間。
Sazabi大尉はこれからの行動について考えていた。
これからの戦いに備え、アステロイドベルトにある本部に戻る・・・のは良いのだが、
果たしてどれぐらいの人数が揃っているか。
この艦も志願兵を募ってきたが、あまり多くない。そして戦いの中宇宙へ「還って」いった者も少なくない。
物資も・・・本部にはちゃんと有るのか?
定期的にある無人物資運搬艦による補給も滞り気味という所が引っかかる。
椅子にもたれ、宇宙を眺めながら頭を巡らせていた。

と、

「お…お前さんがあのSazabiさんかい?」
ベイツ・ガラットと名乗る男が不用心に話しかけてきた。
「ああ、そうだが…何の用だ?」
「何というか・・・”お願い”がある。」
「“お願い”?」
Sazabiが聞き返す。
「ああ。前にコロニーでドンパチしちまったときにさ、
どうしても…うちに入りたいって言った子どもがいてさ。」
軽く咳払いをし、ベイツは話を続ける。目はSazabiにむけている。
「名前はシェルド・フォーリーって言う子どもなのだが、
まぁ、殺すわけにもいかないし、まぁ半ば仕方なく、うけいれたんだけどさ。
それから・・・MSの整備を手伝ったりとかしていたみたいだが。
それである時、『MSに乗させてください』て頼みこんだんだ。そのシェルドが。
アイツのMSの整備の腕はなかなか大したものになっていたし、まぁ演習ぐらいなら、って少しずつMSの操作を訓練させていったんだ。
コイツが又・・・才能って奴かな。最初は目も当てられなかった操縦が、
今じゃ俺より上かもしれん。」
ベイツはしきりに窓の外――漆黒の宇宙――を見て、言葉ひとつひとつに重さを込め、話す。

「なるほど・・・
で、“お願い”は結局何だ?」
Sazabiが聞く。
「シェルドは・・・実戦はまだ一度も無いんだ。
でもシェルドは絶対に一線で活躍する腕はある、それは保証する。だが――――」
すこしベイツの声が弱くなる。視線も一点に定まらない。
「だが、あんな子どもに戦いをさせて良いものなのか…その答えを請いに。
そして、戦いに参加するのなら、」
弱くなってきた声がここで強く、はっきりとした口調に変わっていく。定まらなかった視線がSazabiを見つめる。
「絶対に、守って欲しい。…という“お願い”だ」
「残念ながら、と言おうか。
――――パイロットの人手不足は明らかだ。皆を守るためにはパイロットは一人でも多い方が良い。」
Sazabi大尉は答えた。そして、
「だが、私の部隊に入ってもらおう。
私の部隊は誰一人として・・・殉職を許さない。」
と付け足した。

 

****
果てしなく広っている、宇宙。
その中に入っていくように、又はかき分けるように4つの戦艦は進んでいる。
戦艦は4つとも赤く塗装されており、「赤い彗星」の様に駆けている。
そこに、彗星から小さな光が煌めく。
僅かに2つ。それぞれちがう彗星から出て、そしてひとつの彗星に向かい、進んでいく。
彗星にぶつかる。
小さな光はすぐに消えた。

「俺・・・なんかが選ばれるとはなぁ」
ビリーと呼ばれる男は不思議に思いながら愛機のギラ・ドーガと共にレウルーラまで移ってきた。
ギラドーガのバーニアを吹かし、減速。
やっぱりムサカとは勝手が違うな、と微調整し着艦させる。
すぐさまハッチを開き、MSデッキに立つ。
やっぱり広いな。ビリーの目に大勢のメカニックたちが映る。
そしてブリッジに向かおうとしたとき、ある機体が目に映る。
サザビーD。
化け物、としかビリーには言いようの無い機体だった。
こんなのを動かせるなんて、という驚きもあった。
やばい、何か俺悪いことをしたのか?
だから呼ばれたのか?急に不安になってくる。
しかし。
「味方を全て守ったんだからな・・・なんとかなるだろう」という結論に達し、ブリッジの方へ早足で向かった。

顔は何故か少しひきつっていた。

「Sazabiって人はどんな人なんだろうねぇ・・・
しかし、なんで私がSazabi大尉に呼ばれたんだろ・・・・」
ディライアも不思議に思いながら愛機を連れレウルーラへ移ってきた。
「相変わらず広いねぇ・・・。」
簡単の音を漏らしながらブリッジの方へ向かっていった。


「――――ようこそ、レウルーラへ。」
先に到着したビリーに向かってSazabiが歓迎の言葉を述べた。
今ブリッジにいるのはSazabiとビリー、そして先程話していたベイツが居るのみだった。
「わざわざ俺を呼ぶとはねぇ・・・なにかマズイことでもしましたっけ?」
ビリーが冗談半分でSazabiに問う。
「だったら通信で済ましているな。もしくは・・・通信するのさえ嫌がっているかもな」
「と、言うことは、俺は大尉の“お気に入り”になった訳か」
「まぁ、そうだな・・・。」
ビリーはヒュウ、と口笛を一回鳴らす。
「大尉、俺をちょっと買いかぶりすぎなんじゃないですか?」
「いや、お前が思っているほど買いかぶっていないさ」
ブリッジに笑いが漏れる。いつの間にかガイ大尉とディライア中尉、そしてシェルド・フォーリーが到着していた。

Sazabiは向き直り、そこにいる皆の表情を確かめ、そして真剣な面立ちになった。

「わざわざ来てもらって申し訳ないと思っている。だが、どうしても伝えたいことがあってな・・・。
単刀直入に言おう。ここに居る皆には、私の傘下に入って貰いたい」
一瞬、空気が変わる。Sazabiは心なしか視線が冷たくなったように感じた。
「・・・と言ってももちろんネオ・ジオンを抜け出す訳ではない。敵対しようとも、中立になろうとも思わない。
「じゃあどうなるのさ?わざわざアンタの傘下に入って何か得でもあるのかい?
・・・それとも、自分の権力を強めたいだけかい?」ディライア中尉が強く問う。
強くSazabiを睨む。Sazabiはたじろいもせず、それに頼もしささえ感じていた。
「得は無いわけではない。権力も狙っていない。ただ、私欲なら、ある。ワガママに近いかもしれない。
私は、私が選んだ人と一緒に組むことのみを目的にしている・・・その方がやりやすい。そして効率的だからだ。」
「戦闘で“効率”ってのは重要だからな・・・」ガイ中尉が何か言いたそうなシェルドに向かってフォローをする。
「そして私の偏見で私の部隊のパイロットを選ばせてもらった。
――――まずはガイ中尉。」
ガイは素早く、短い了承の声と共に見事な敬礼をした。
矢張り見込んだとおりの一流士官だ――――とSazabiは自分の“勘”が当たったことに満足した。
「ガイ中尉には要となる“索敵”を行って欲しい。――――やれるな?」
Sazabiはガイを軽く見つめる。
「経験はあまりありませんが・・・やらせていただきます。
しかし、索敵とは・・・この1小隊に必要ですかね?」
「索敵を軽く見るなよ。――――まぁ、分かっているだろうが・・・・。
索敵が必要なのは、この小隊の役割から、だ。追って話をする。
さて、次は・・・ビリー少尉。」
「うぉ、俺ですか!?」ビリーがすっとんきょんな声を上げる。
シェルド思わず笑い声を漏らす。
「ええっと・・・俺なんかを選んじゃって大丈夫ですか?
俺、足手まといになっちゃいますよ?」頭をかき、身振りを加えながらビリーは話す。
「それは自分の過小評価だな。
・・・お前は十分に立派な実力を持ってるよ。特に逃げ足はな」
また笑い声が漏れる。
「そりゃひどいっすよ・・・でもそれはどうも」ビリーが今度は情けない声で話す。
「ま、それは冗談としてもだな・・・
誇れるぐらいの実力はある。そしてお前の役割は、遊撃、そして、
・・・・“おとり”だ。」
「ええええ!?!?」
先程よりさらにスットンきょんな声がブリッジに響く。
「そんな・・・命がいくらあっても足りませんよ!!捨て駒じゃないですか!」
「いや、ひとまず落ち着いてくれ・・・
おとりと言ってもだ、攻撃を一身に受けなくて良い。ただ、敵の注意を引いて欲しいだけ、だ。
それに、お前ほどの腕ならばある程度狙われていても直撃はあるまい?
そしておとり役は私もやる。二人なら狙いもそれなりに分散するしな」
Sazabiは必死に説得をする。その様子が何だかおかしくてシェルドはまた笑い声を漏らしてしまう。
俺ってひょっとして笑い上戸なのかな、と心の中で呟く。思えば、あんまり最近笑ってないな。
いや、最近じゃない。ずっと昔から・・・楽しいことが、全然無かったんだ。
「はぁ・・・。もう分かりましたよ、やりゃいいんでしょう?」
ビリーの声が入ってきてシェルドは考え事をやめた。
「・・・んで?もうひとつの役割の“遊撃”ってなんなんですか?」ビリーは半ばヤケになっているようだ。
「ん?ああ・・・。これは自由に動き回って敵を攻撃する役割だ。
自分が思った通りに、自由に行動すればいい。
苦戦しているところの援軍でも良いし、油断している敵にトドメを刺すのも良し。
・・・・自由にどちらを選んでも良いぞ」
「おぅ、そう言うことか・・・。
・・・・ってオイ、“自由”って言っておきながらやっぱり役割が決まってるじゃないか!」
わざわざ二択にしやがって、とビリーが怒っているような、しかしどこか楽しそうな声で言う。
「ああ、済まなかった・・・。それでは頼んだぞ」一応謝ってはいたが、声はそうではなかった。
「りょ〜かい・・・。あぁ、選択の余地は無いのね・・・・。」力無い声が返ってくる。

「さて・・・今の二人と私がこの小隊の扇の要、と言ったところだ。この小隊の中心となる。
そして残ったものが戦闘要員だ。といっても、私たちも戦闘するのだがな。
さて、基本の隊列なのだが・・・簡単に話しておこう。先鋒は私とビリーが行こう。」
やっぱりおとりだからそうだよなぁ・・・という声がどこからか聞こえる。
「・・・と言っても注意を引くだけ引いたらすぐに散開して遊撃に回るがな。
そして・・・中心となるのはガイ中尉だ。それを囲むように陣形を組んで欲しいのだが・・・できるな?」
返事は無かった。
しかし、彼らも幾多の戦いをくぐり抜けてきた者たちだ、心配は余計だったな――――とSazabiは思った。
「そして・・・シェルド君はとりわけガイ中尉の“護衛”をたのみたい。・・・大丈夫か?」
シェルドは一旦視線を逸らす。
矢張りこの年の少年に戦わせるのは酷だったか・・・一回実戦を体験したというならばなおさらだ。
しかし、あの少年ならできるような、そんな気が何故か起こるのだった。
――――ニュータイプの勘、というものなのだろうか。

「・・・やります。僕はもう、人が死ぬのは嫌なんです。」
その言葉は明らかに矛盾していた。しかし、言葉からは強い意志が感じられた。
「・・・分かった。協力感謝する。
しかし・・・半端な覚悟では駄目だ。戦場に出れば、人を殺さなければいけないときもあるかもしれない。
そして・・・君が殺されるかもしれない。分かるな?」
シェルドは表情を曇らせた。
「分かります・・・分かっているつもりです。でも・・・、」
言葉を詰まらせたシェルドに、Sazabiは語りかける。
「もし君が、相手を撃墜することを躊躇ったら、それだけこの艦の人たちの命が危なくなる。
君が一機撃墜しなかったために、全滅という可能性もある。
命を天秤にかける気は全くないが、・・・戦場というものは、戦争というものはこういうものだ。
覚悟ができていないのなら・・・出撃はしないでほしい。殺す覚悟が無いと、戦場では残念ながら――――
生きていけない。」
シェルドはまっすぐにSazabiの目を見て聴いていた。
「・・・わかりました、決心は付けます。
だから、あと少しだけ――――」
「いや、いつでも良い。いや、戦争に加わらなくても良い。命は無駄にするものではないからな。
だが、決心が付いて戦えるようになった時は――――よろしく頼む。」
Sazabiが答え、そしてそこで一旦解散となった。

外には未だ宇宙の闇が広がっていた。
その闇は無限に広がっているようにさえ思えた。




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