三人の男　　　――――Each life


ある村での話です。
一人の男がなにやら神妙な面立ちで立っていました
男の目には生気が感じられず、体に妙な模様がありました。
旅人が、あなたは何をしようとしているのですかと問うと

「自殺をするために、今ここに立っている」

と答えました。
旅人が何故自殺をするのか問うと、

「もう駄目なんだ俺は。
あんたも見ただろう？この村の酷さを。
そこらじゅうで疫病が蔓延してやがる。
俺は両親の手当をしている間にうつってしまった。
そして両親は苦しみながら死んだ。俺はそんな人生は送りたくない。
だから、死ぬんだ。」

と男は答えた。
旅人は　そうですか、と短く答え、介錯をしましょうか、と男に尋ねた。
男は、「そうか・・・悪いな。痛くないように、頼むぞ。」一言一言を噛みしめるように言いました。
旅人は、返り血が自分に付かないように気をつけながら、頭と胸に一発ずつ、
「急所」とも呼ばれる撃たれたら即死の部位を寸分の狂いもなく打ち抜きました。
そして旅人はその村を去って行き、
その場所には死体が安心した顔で倒れていました。


ある街での話です。
一人の男がなにやら神妙な面立ちで立っていました。
男は顔には頬骨が目立ち、腕は細く、下腹は出ていました。
旅人があなたは何をしようとしているのですかと問うと

「自殺をするために、今ここに立っている」

と答えました。
何故自殺をするのか問うと

「もう駄目なんだ俺は。
あんたも見ただろう？この街の酷さを。
うちの街は全くと言っていいほど裕福ではない。
俺は仕事でミスをしてクビになった。
だが、そんな俺に救いの手をのべられるほどみんなゆとりがない。
そして俺の両親が満足に飯も食えずに苦しんでいる。
俺が死ねば両親に多少なりとも俺の保険金が入る。なんとかな。
苦しんでいる両親を見ながらの生活も嫌だからな。
だから死ぬんだ。」

と男は答えた。
旅人は　そうですか、と短く答え、そして、介錯をしましょうか、と男に尋ねた。
男は、「あ・・・いや、この街で俺を殺すと殺人罪になってしまう。
――――気持ちは有難いが、遠慮しておこう」と答えました。
旅人は、またもそうですか、と答え、その街を去っていきました。

暫くした後、その場所には死体が何だか考え事をしているような、難しい顔で倒れていました。

ある都市での話です。
一人の男がなにやら神妙な面立ちで立っていました。
その男は年の割には恰幅の良い体つきをしていました。
旅人があなたは何をしようとしているのですかと問うと

「自殺をするために、今ここに立っている」

と答えました。
何故自殺をするのか問うと

「もう駄目なんだ俺は。
あんたも見ただろう？この都市の酷さを。
俺は高校までは本当に良い成績で良い高校に入れたんだ。
それが、肝心の大学で落っこちてしまったんだ・・・。
一流の大学に・・・・。
もう駄目なんだよ・・・・。
友人は一応励ましてくれるが、俺には分かる・・・。
『お前はもう二流だ』とか『やっぱりこの程度だったんだな』心の中で思っている・・・
親も気まずそうに励ましてくる・・・。
もうそんな気を遣う生活はこりごりだ。
だから死ぬんだ・・・・」

と男は答えた。
そうですかと短く答えて旅人が去ろうとしたとき、
「なぁ、わかるだろう？俺の苦しみが・・・。なんで俺が・・・、
何故俺があの大学に落ちてしまったんだ・・・。何故俺だけ・・・。
もう、そう考えると、死にたいんだよ。苦しいんだよ。」
と言ってきました。
旅人は　そうですか、と短く答え、ならば介錯をしましょうか、と男に尋ねた。
男は,
「え！？・・・・いやちょっとまってくれまだ心の準備がいやそれよりも俺本当にってそうじゃなくていやだから」
と、かなり動揺した様子で早口に、特に意味の分からない言葉を言い、
そして何か思いついたような顔をして,
「そんなことよりも！今！俺を殺すと！捕まってしまう！
ここの法律によって！裁かれてしまう！それは流石に旅人さんもいやでしょう？
だから、介錯はかんべ・・・お願いできません。」と、男は声を荒げて言いました。
旅人はそうなんですか、と一言だけ言い、立ち去りました。

もとい、立ち去ろうとしました。
男に呼び止められ、「なぁ、わかるだろ？俺の苦しみが・・・。
なぁ、分かるよな？苦しいよな？死にたくなるよな？」と、まるで縋るように話し掛けられました。

旅人は振り向かず無言で立ち去っていきました。
その場所には寂しそうなのか、はたまた哀しそうなのか、
よく分からない表情をした男が独り立っていました。

いつまでも、いつまでも立っていました。